大自然の国カナダ
Scenes of Canada
カナディアン・ソーラーのふるさとカナダの、豊かな自然や野生動物、素朴なライフスタイルなどをご紹介します。
陽だまりInterview | 「パドルを挿して静かな流れとともに旅をすると自分が自然の一部になったように感じます」
カナダ北部、壮大な自然が広がるユーコン準州で、大学での仕事とカヌーガイドを両立しながら暮らす熊谷芳江さん。厳しくも美しい環境の中、様々なアウトドア体験も追求してきた熊谷さんに、そのナチュラルなユーコン・ライフを語っていただきました。
熊谷芳江さん Yoshie Kumagae
福岡県出身。カナダ、ユーコン準州ホワイトホース市在住。Yukon College でInternational Education Coordinator として留学生を受け入れる仕事をしつつ、ツアー会社Sweet River Enterprisesも経営。日本人向けにカヌーやハイキングなど、アウトドア・アクティビティを通してユーコンの魅力を伝えるツアーを催行。
➢ www.yukonriver.com
カヌーは私のユーコンの暮らしの原点
― ユーコンに来て今年で19年目だそうですが、なぜこの地に住むことに?
熊谷最初は、全長約3000kmの大河ユーコンをカヌーで下ってアラスカを目指すのが夢で、その旅の出発地となるここ、ホワイトホースに来ました。学生時代に旅したアラスカは、その大自然が自分の「帰る場所」として心にあったので。ですがカナディアン・カヌーに関しては全くの初心者だったため、まずはここで練習をしようと。そうしているうちに、周りの自然やユーコンに暮らす人々に魅了され、しばらく滞在することにしたのがきっかけでした。
― で、気がつけばそのまま19年…。現在はユーコン・カレッジで留学生のエデュケーション・コーディネーターとして活躍する一方、バリバリのカヌーガイドとしての一面も。
熊谷カヌーガイドは、大学の仕事をする前から自分のビジネスとして立ち上げてやってきましたし、私のユーコンでの暮らしの原点でもあるので、今でもできる限り継続しています。ガイドとして、お客様とユーコンのウィルダネス(原野)にどっぷり浸かるのも楽しみのひとつですから。
― そこまではまるカヌーの魅力とは?
熊谷自然との一体感です。川面にパドルを挿して静かな流れと共に旅をすると、本当に自分がその自然の一部になったように感じますし、自然に対する視点も変わります。普段は見下ろしている風景を、逆に川から見上げると、また違った表情を見ることができたり、新しい発見もあったりするのです。
― 水の上で危険な目にあったこともあるのでは?
熊谷ホワイトウォーター(急流)を漕ぐトレーニングを受けていた際に、沈んだカヌーを助けようとして、自分たちのカヌーも転覆してしまい、数百メートル流されたことがあります。川の水温は平均3℃と低いので、水中に長くいることは命取りになります。あの時は、流れが早くて岸に泳ぎ着くこともできず、いつレスキューのカヌーが追いつくかも分からず、またその先にどんな岩や激流が待ち受けているかも分からなかったので、怖い思いをしました。友人の話では、私は随分落ち着いて流されていた、ということでしたが(笑)。
32日間のカヌー&キャンプ生活も体験
― アウトドア・リーダーの養成学校として世界的に有名なNOLS(National Outdoor Leadership School) のプログラムで、1ヶ月以上のキャンプ生活も経験したとか。
熊谷NOLSのカナダ校がホワイトホースにあり、また、親しい友人がこの学校でインストラクターをしていたこともあって勧められ、奨学金も取れたので受講しました。参加したのは32日間のカヌー・プログラム。カヌーを選んだのは、やはり自分のスキルを伸ばすためでした。でも、長期間ウィルダネスで知らない人たちとキャンプをしながら生活していくわけですから、カヌー以外にも色々と学びがありました。まず、精神的にも肉体的にもむき出しになる環境では、人間の素の部分が否応なく出るため、自分自身の弱さ、ずるさといった見たくない部分まで見えてしまいます。その分、ちょっとは強くなれたかなとも思いたいですが。あと、食事も大きなポイントでした。何しろ限られた食糧の中で生活していきますから、なんとか工夫して料理し、お腹を満たそうと努力していました。新鮮な肉や野菜などから1ヶ月も離れていましたから、プログラム終了後に食べたサンドイッチのトマトとキュウリの味と歯ごたえは、今でも忘れられません。
― エクストリームな体験ですね。本当に自然が好きでないとできないと思います。そんな熊谷さんが、ユーコンで一番好きな場所を教えてください。
熊谷自分の心が一番落ち着くのは、夏の北極圏を覆うツンドラの風景に身を置いた時。視界を遮るもののない、どこまでも続く平坦で茶色の風景。この気持ちを言葉にするのはとても難しいのですが、私にとっては、そこにある厳しさや寂しさ、そして永遠の時を感じさせる力強さ、存在感、そういうもの全てが心に響く場所なのです。
― 最後に、これからの夢は?
熊谷あまり人生の長期計画を立てるのが得意ではなく、いつも目の前に現れる「面白そうな事」に飛びついて挑戦したり、頭に浮かぶ「夢」をひとつひとつ叶えていくのが私のスタイル。これからも、できるだけ笑顔で、その瞬間瞬間を大切に生きていけたらいいなと思います。
Photo: Yoshie Kumagae, Government of Yukon / Derek Crowe, Fritz Mueller