大自然の国カナダ
Scenes of Canada
カナディアン・ソーラーのふるさとカナダの、豊かな自然や野生動物、素朴なライフスタイルなどをご紹介します。
陽だまりInterview | 「ここは地球の中でもかなり恵まれた場所。ウィスラーでは、その価値観をみんなが共有している」
北米最大級のマウンテンリゾートとして知られるブリティッシュ・コロンビア州ウィスラーで、長年スキーや乗馬、ハイキングなどダイナミックな体験を提供してきたガイドの柳沢さん。人生の半分以上を過ごすことになったこの土地の魅力について、たっぷりと語っていただきました。
柳沢純さん Jun Yanagisawa
東京都出身。1988 年よりウィスラーに在住。冬はスキーガイド、夏はアウトドアアクティビティ全般のガイドとして活躍。またウィスラーをベースにスキー、ハイキング、乗馬、カヤックなどのアクティビティを提供する現地ツアー会社「ジャパナダ・エンタープライズ」を経営。カナダで最難関といわれるカナダ山岳ガイド協会(ACMG)の資格を取得。ウィスラーSAR(遭難救助隊)隊員でもある。
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放浪の旅で訪れたウィスラーに住み、27年
― カナダに暮らしてすでに27年になる柳沢さんですが、そもそもカナダに来ようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
柳沢(以下Y)20代の頃、漠然と外の世界を見てみたいと思い、メキシコ、アメリカ、カナダと旅をしたんです。その途中でウィスラーに立ち寄り、すっかり気に入りまして。当時、白馬八方尾根でスキーパトロールをやっていたので、ウィスラーというスキー場があるのは知っていましたが、想像していた以上にイメージが良かった。それで翌年、ワーキングホリデー制度を利用して、ウィスラーに戻ったんです。それ以来、住み着いてしまいました。
― ワーキングホリデーで来て、いきなりスキーの仕事を始めたんですか?
Y時代がよかったですね。日本はバブル真っただ中。ウィスラーでも景気のいい日本人旅行者をどんどん受け入れようという動きがあり、うまく仕事が見つかったんです。英語はできなかったんですが、スキー学校の校長にインストラクターに言葉はいらないなんて言われて(笑)。それで講習を受けて資格を取り、結局そのまま5シーズン学校で働きました。
― そしてそのまま、カナダで暮らすことに?
Y住めば住むほど、この土地に惹かれていきまして。ウィスラーで暮らしている人のほとんどはスノースポーツが好きな人たちで、みんなある種共通の価値観を持っているんです。主要言語がスキー・スノーボードというんでしょうか。初めて会った人でも話をすると、何かしらつながりがあったりして共感しやすい。しかも、ウィスラー自体がリゾートとして60年代から計画的に開発されてきた街なので、街のあり方とか、自然に対する考え方とかが、住んでいる人たちの間で共有できているんです。大切に思うポイントが同じというか。そういう、同じ想いを持つ人たちの中にいる解放感が、自分にとっては最高に居心地がよかったですね。スキー学校のインストラクター時代の数年間は、年収50万円くらいと惨憺たるものだったのですが、この環境は何にも代えられないと思い、移民権の申請をしました。
山奥での試験を乗り越え、最難関のガイドへ
― 今や冬はバックカントリースキーやヘリスキーのガイド、そして夏はアウトドアクティビティのガイドとして、一年を通して活躍されています。カナダでも最難関といわれるカナディアン・マウンテン・ガイド協会のスキーガイドの資格も取られたんですよね。最終試験はとんでもなく過酷だったとか。
Y山の奥にヘリコプターで入り、そのまま10日間試されました。毎日課題を与えられ、周囲の状況にかなった判断を求められる。ひとつ失敗したら終わり。朝5時から夕食が終わるまで、一瞬たりとも気が抜けない。プレッシャーとの戦いでした。
― エクストリームなガイドをしながら、27年。今もウィスラーにはじめて来た当時と同じ感動を感じますか?
Y見るものすべてが新鮮で、「うわー、うわー!」となににでも反応していたころから比べるとすこし落ち着いてきたかもしれません(笑)。でも、違った感動はありますよ。たとえば20年以上続けてきたヘリスキーの仕事中によく感じることですが、似た日はあっても同じじゃない。山の形は一緒でも、そこに積もった雪の量、空の色、雲の流れ、風や気温で印象が変わる。何年もやっているのにそれまで見たことがない表情に出合うことは珍しくないんです。やっぱり感動しますね。そんな風景がウィスラーにはたくさん散らばっているので、退屈しないんです。
今も変わらないウィスラーの魅力を、これからも守り続けたい
― 2010年のオリンピックではアルペン競技の会場にもなり、リゾートビレッジも大きくなり、ウィスラー自体かなり賑やかになったような気もしますが、街に対する想いは変わりませんか?
Yさっきも触れましたが、ウィスラーに住んでいる人は、共通の感覚を持っていると思います。自分たちは地球の中でもかなり恵まれた場所にいて、これを守っていくのは我々の責務だと。それは誰かから押し付けられたものではなく、それぞれの価値観として持っているものだと思います。これがある限りウィスラーの街の心地よさは変わらないのではないでしょうか。
― エキスパートガイドとして、日本の旅行者に、ウィスラーのどんな魅力を伝えたいですか?
Y特定の何かを見てくださいというのではなく、ウィスラーという空間に滞在し、滑って、歩いて、体を動かして、いろいろな体験をしていただきたいですね。ここには、ロッキーやナイアガラの滝のように、観光的にすごく象徴的な景観があるわけではありませんが、自然とリゾートとのバランスがとてもいいんです。居心地のよいビレッジにゆっくり滞在して、美味しいものを食べ、冬はもちろんスキーやスノーボードを、夏ならハイキングや乗馬、カヤックなど無数にあるアクティビティで自然を体ごと体験してみる。多少なりアウトドアが好きな人ならきっと心躍るような休日が過ごせるはずです。とにかくこの風景の中に溶け込んで、じっくりとその気持ちいい部分を感じていただきたいです。
Photo: Jun Yanagisawa, Hisae Yanagisawa, Tourism Whistler / Mike Crane